「えぇ~、東京ですか? いつからですか!? いつ帰って来るんですか? ドコ住むんすか? 単身赴任ですか?」
「おいおい、オマエ聞きすぎや。 1コづつ質問せぇや。1コづつ。」
「んなら、いつから行くんっすか? 東京。」
「1ヶ月後やな。」
「えええええぇ、そりゃまた急な話ですね!」
「しゃーないやんか、サラリーマンやし。」
「で、いつ帰ってくるんすか? 1年? 3年?」
「あ~、多分無理やな、定年せんかぎり向こうの生活やろな。」
「ず~とすか? 何でまた・・・・?」
「本社の営業部長・・・、ってヤツ? 柄じゃないけど、会社全体の営業を管轄せなあかん・・・らしわ。」
「えらいさんやんか!村上さん! それって俗に言う、しかも村上さんが一番嫌いな 出世 ってヤツじゃないっすか! オメデトウゴザイマス!」
「はぁ~、いややなぁ、大阪出て行くの・・・。 ココが好きとか別に無いけど 大阪しか知らんモンなぁ。 紫苑、代わりに言ってくれへんか?」
「代わってくれてイイんだったら、オレ何が何でも行きますけど、そりゃ無理やし。 でもめでたい!」
「でな、ほんまオヤジの戯言(たわごと)として聞いて欲しいねんけど、もう大阪に戻ってこれる気がしないんや。 子供もそのまま高校とか大学とか行き出すと、生活変えられへんやろ。 東京の人間になってしまう前に、大阪で、大阪にいる間、大阪に住んでて一番一生懸命やってたこと、それを東京に行く前にもう一度やって 心置きなく向こうに行きたいねんな。」
もう、村上さん なに詩人気取ってんの! いつにも増して大袈裟なんやから・・・っと突っ込み入れようと思ったけど、やめた。 村上さん、ちょっと泣きそうだったから。
あんまりそんな態度取らないけど、ココは一つと思い 村上さんの肩を「ボン」とたたく。
「よっしゃ、わかりました。やりましょ!バンド。 小屋ドコでしますか? やっぱどっか借りましょうね! 練習いつします? 何やります? やっぱCharしないとね、スモーキーっすかね?」
無理矢理では無いが、とりあえず はしゃいでみるオレ。
「ありがとな、紫苑。」
最後にもう1杯だけ芋焼酎のロックを頼んだ。 村上さんの分も一緒に。
20:45分ごろ、オレはスタジオ「J」に到着した。
入り口前には白い「べスパ」が泊まっていた。金本のべスパだ。
少し緊張気味でドアを開ける。 コルクくさく若干湿っぽいスタジオ独特のにおいがする。
「毎度、いらっしゃい。」
金髪で長髪、ゆるいパーマをあて どう見ても「ヘビメタ」のお兄さんが出迎えてくれる。
このスタジオ「J」の雇われ店長「ミカラム」さん。
ミカラム・・・・、変な芸名(?) ミュージシャンの場合、芸名ちゅうのかな?
ミカラム・・・・、そう、若き日の村上さんなのである。
「お~、紫苑、こっち!」
金本が手を振る。 分かってるちゅうねん、狭いスタジオやし。
ミカラムさんにペコリと会釈をして金本のところまで行く。金本はラッキーストライクを吸っている。
そして隣にはあの夜、金本と一緒にいたモヒカン。
「紹介しとくわ、こいつドラムの吉田。 産大付属通ってんねん。家は泉大津やねん。」
「ヨロシクな。 紫苑くん、だっけ? しおんってカッコエエ名前やね。」
なんや、意外に礼儀正しいヤツ。しかも声高いし。 この間は革のマスクしてたから分からんかったけど、意外に男前やん。
「こちらこそ、よろしく。 モヒカンカッコエエな、学校でなんか言われへん?」
「これな、下ろすとやりすぎたカリアゲみたいになるねんな。 だから一応なんも言われて無い。色もメッシュで色付けてるから、頭洗ったら取れるねん。」
そういえば、モヒカンしてるけど今日の色は黒い。 その頃は高校生がPUNKやヘビメタするには結構努力が必要だった。
「んならスタジオ入ろか? なぁミカラムさん、時間早いけどもうエエやろ、入って。」
「おぅ、かめへんで、マイク何本いるねん? ちゅうかテキトーに持ってってや。」
金本はマイクを2本とエフェクターの入ったジェラルミンケースとハードギターケースを持ってスタジオへ入った。 続いて吉田がギターケースを肩からかけ、カチカチとスティックを叩きながら入る。そしてオレもソロソロと着いていく。
2重のドアを閉めると「シーン」という音が耳に入る。
吉田はドラムの丸椅子に座り、ハイハットを2・3回踏む。「チーザ、チーザ」と音がする。
「ダカドン」っと3連を叩く。
正直、生のドラムの音なんて始めて聴いた。
「紫苑、おまえどっちのアンプ使う? オレはどっちでもエエねんけど・・・。」
このAスタジオには2つのギターアンプがある。
MarshallとFenderのTwin Reverb。
もちろんオレはMarshallを選ぶ。 だって・・・、ミーハーだから。
Marshallのアンプも始めての経験。 緊張して慌ててシールド繋いで、アンプのボリュームが「0」になてるかなんて確認する余裕もなく・・。
金本のギターはGibsonの黒いレスポール。PUNKギタリスト必須なアイテム。
エフェクターも沢山持ってたけど、デジタルディレイとオーバードライブだけ繋いで音を出す。
金本はオレに何か弾いてみろとは要求しない。
オレは適当に、でも自分では考えながらコードをいくつか繋いで曲っぽく弾く。
10分ぐらいだろうか?個々に音出しして調子を確かめる。
なんとなくみんな弾くのをやめる。ココで始めて金本が、
「オマエなんか弾ける? 何でもええで。」
「マイケルシェンカーのArmed And Readyやったらソロ以外弾けるけど・・・」
「M・S・Gか、ええなぁ。オレ ソロ弾くからお前コード弾けや、吉田も叩けるやろ?」
モヒカン吉田は大きく頷く。
オレのギターがちょっとハウリングした。
ドラムスティックのカウントが入る。
カラダ全身がスピーカーになった。自分の弾くギターがこんなに大きな音で自分に帰ってくる。
なのに負けないドラムの音。
金本のギターはちょっと乱暴だったけどキメるトコロはきっちりキメる。腰の下までギター下ろしてるからだろう。 もっと上げればもっと弾きやすいのだが、そこはPUNK、見た目にもこだわらないと。
そんな感じで初めての1曲が終わった。
「なかなかやん! うまいうまい! なぁ吉田。」
モヒカン吉田は大きく3回頷いた。 オレも気持ちよかった。
手のひらが汗びっしょりになっていた。 続けて金本が提案する。
「今日なぁ、吉田がベース持ってきてるねんけど オレベース弾くから、もう一回合わせへんか?」
金本は吉田のFenderのベースをケースから取り出し、ベースアンプへ繋ぐ。 ド太い音が鳴る。
そしてもう一度、今度はギターソロ無しのArmed And Readyをやった。
初めてギター・ベース・ドラムでのセッションを体験した。
これがバンドなんだ・・・。
金本のマジックにでもかかってしまったのか? それともベースの魅力にはまったのか? 理由は忘れてしまったが、オレはこのスタジオでのデキゴトから2週間後には、金本のバンド「T・R・S」のベーシストとしてメンバーになっていた。
ベースを持っていなかったが吉田のFenderベースを3000円という破格値で譲ってもらう。
「T・R・S」=「The Real Size」というバンド名、金本が考えた。
オレも結構気に入っていた。
シンプルな3ピース編成も好きだった。 練習もマメにやった。 ベースもすんなり慣れた。弦も太いし4本しかないし。
それよりもこのバンド「T・R・S」に入って一番変わったのがPUNKという音がスキになったこと。
ハードコア・oi・ガレージ・PUNK POP、何でも聴いた。
バンドは70%オリジナル、コピーはピストルズ、ラフィンノーズ、ジョニーサンダースが中心だった。
いつものように「J」で練習。 オレもオリジナルを作らせてもらって、結構曲が溜まってきた。
「ミカラムさん、毎度ぉ~」
「おぉ、紫苑 今日エライ早いやん、まだ予約の時間まで2時間ぐらいあるで。」
「ヒマやったし、ココで煙草吸ってようかなぁっと思って。 ミカラムさんが邪魔って言うんやったら、隣のBar行ってるけど。」
「そんなん全然かめへんよ! オレもヒマやし。 そやそや、オマエにエエもん触らせたるわ。」
ミカラムさんはニヤニヤしながらレジの奥にあるギターのハードケースを持ってきた。
そのハードケースは二股に割れていて、明らかにフライングVのハードケースだった。
「ジャジャーン! どや?これ?」
それは、それは・・・、GibsonのフライングVであった。 赤茶で木目。 ピカピカの新品。
「ひょ~、カッコエエですね。 どしたんっすか? これ?」
「オレが買ってん、ニューヨークの知り合いに頼んで 仕入れてもらって、さっき届いたのよ~~!」
ミカラムさんは有頂天になっている。 誰かに見せたくて仕方なかったのであろう。
「スゴイですやん、ミカラムさん ちょっと弾いてみてくださいよ~!」
ミカラムさんは売り物のMarshallのポータブルアンプをつけ、軽くオーバードライブをかける。
すごく甘い、そして深い音がした。 ミカラムさんの小技プレーがドンドン出てくる。
オレはギターとギターの音とミカラムさんの指先に酔っていた。
「紫苑、おまえ そもそもギターやろ? ランダムスター持ってるんやろ? ちょっとコレ弾いてみ。国産ESPもエエけど、Made In U.S.Aもエエぞぉ~」
そのフライングVを握るとネックに手が溶けていく、焼きたての食パンにバターを置くとパンの中にトローっとバターが吸収されるように、手とギターが一体化する、そんな感じ。
ピッキングでコードを弾く。 ミカラムさんとは違う音が出る。 やはり名器は引き手を選ぶのであろうか? それでもオレが出したい音をフライングVはヤツの音色にアレンジして120%の期待度でアンプから返してくる。
「すごいなぁ~、こんなギターあるんや・・・。すごいなぁ~ すごいなぁ~」
「オマエ、すごいしか言わんのかい? ボキャブラリー無いのぉ~。 でもスゴイやろ?」
今はベーシストだが、やっぱりギターも好きだ。
ギターもうまくなりたい。ミカラムさんみたいに色んな音を出してみたい。
おれはダメを承知でミカラムさんに言った。
「なぁ、ミカラムさん オレにギター教えてくれへん?」
「エエよ」
あっさり受け入れてくれたのが、逆に気持ち悪かったが バンド練習とギターレッスンを受ける為、学校行ってる時間以外の時間は、ほとんど「J」で過ごしていた。
起きて学校行ってスタジオ行ってバイトしての繰り返し。
気が付けば春。高校2年に進級していた。
バンド活動も好調で、既に対バンGIGを2回こなしていた。
ステージに立つと緊張するかと思っていたが、結構気持ちのイイモンだった。
自分達の音で客が踊る。 自分達の音が好きだと言ってくれる人もいる。 見に来てくれてる連中は顔見知りが多かったが、2回目のGIGは知らない人が多かった。 これには興奮した。
ベースもPUNKではほとんどやらないチョッパーなんかも入れてみたり、ドラムも2バスにしたり、オリジナル性を強調したPUNKバンドに成長していた。
ギターの腕前も、そこそこではあるが 上達していた。ミカラムさんから色んなテクニック、色んなジャンルの曲を教えてもらった。
「紫苑、だいぶウマなったなぁ。 リッパ立派! ベースだけやなくてギタリストでもやっていけるで、まぁオレには敵わへんけどな!」
「そんな、滅相も無い・・。ミカラムさんに勝てるワケないですやん。 でもミカラムさんのおかげですわ。 ほんま感謝してます。」
「おまえ、どーすんねん? これから音楽の道に進むんか?」
「いやぁ~、まぁ~ったく考えた事ないっすわ。 今が楽しい、それだけですわ。 GIGはもっとしたいですけどね。」
ミカラムさんはニヤニヤしていた。 どういう意味かは分からなかったが・・・・。
そんな会話をしていると「J」の扉が勢い良く開いた。
「紫苑、やっぱココやったか! さっきオマエん家行ったんやけど、ココちゃうか?って。オマエのオカン 嘆いとったで、いっこも家におれへんって。・・・・いや、そんなことより・・・・」
「なになに、どーしたの? まぁ座りぃなぁ。」
かなり興奮気味な金本。 外の自動販売機で買ってきたコーラのプルトップを空けると、元気良くコーラが噴出した。
「決まったで、紫苑! 野音、野音 大阪城野外音楽堂のGIG!」